活躍する電気技術者達

架空送電線の建設現場で
北の大地の電気インフラを繋ぐ

活躍する電気技術者達
  • 鈴木 智さん
    北海電気工事株式会社
    電力工事部 基幹送電工事グループ
    基幹送電工事2チーム 課長代理
  • <保有資格>
  • 第3種電気主任技術者(1999年度)
    第1種電気工事士(1999年度)

――現在の業務内容は?

北海道電力から請け負う架空送電線工事の現場代理人として、業務を行っています。架空送電線工事は、大別すると鉄塔の基礎工事や組立工事、架線工事に分かれます。鉄塔の高さは、現在私が従事している現場を例にとると平均で63・5メートル、最大で77メートルあります。組立工事では山岳地のためクレーンで組み立てが出来ないので、台棒と呼ばれる鋼製で18mある棒状の工具を使用して鉄塔部材を組み立てていきます。架線工事とは鉄塔間に電線を張る工事で、初めにヘリコプターでロープを延線し、そのロープを細いワイヤーロープ、その細いワイヤーロープを太いワイヤーロープ、そして電線へと引き替えていきます。

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現場代理人の役割は多岐にわたり、主に工事の工程管理や安全管理、品質管理を行う統括管理業務や、お客様との渉外対応などの業務があります。工程管理では、急遽、計画を見直すこともしばしばです。例えば、山岳地帯の架空送電線工事では物資輸送にヘリコプターを利用しますが、天候の状況によって、作業人員の調整や運航計画の組み替えが必要になるからです。また、品質管理では、お客様が要求する仕様の通りになっているか、基礎床盤の地耐力の確認や鉄塔一基一基のボルトの締め付け具合、電線が設計通りの張力で張られているか弛み量の測定や架線後の電線と鉄塔の離隔距離が保たれているかなどの検査を行います。

――業務で特に注意している点や、やりがいは何ですか?

請負工事ではお客様から要求される期日で、より高い品質のものを納められるか、また施工調査ではお客様が工事設計をするために必要な情報を調査できているかを常に考えています。そのためには原価管理の知識も重要で、悪天候により工事が遅れた場合、当初の予算通りに進めるための対策を考えます。鉄塔の最適な建設場所を決めるための施工調査では、地形や地質を調査するとともに、建設場所へ車両で資機材を運べるか、木の伐採は可能か、ヘリコプターでの物資輸送はどのコースで行うかなどを意識して徹底的に現場を歩いて確認しています。
自分の建設した送電線に電気が流れた時は、やって良かった、頑張ってきて良かったと思います。また送電線は地図に載ります。自分の建設した送電線が地図に載ると、電力の安定供給に貢献出来たことに対し何とも言えない嬉しい気持ちになります。

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――資格取得によって得た知識・技能は現在どのように役立っていますか?

大学時代は電気工学科で専門的なことを学びましたが、電気主任技術者の資格取得によって電気の基礎知識を改めて身につけることができました。現場管理業務は様々な法律によって規制されています。資格取得で得た法規の知識は、官公庁への申請業務など現在の仕事に非常に役立っています。また、近接した送電線による誘導感電を防ぐために接地用具を取付ける事や鉄塔組立作業時の機械工具の強度検討、碍子(がいし)の必要な個数、送電線の電圧によって変わる安全離隔距離を検討する際などに、資格取得で得た知識を活用しています。

――北国ならではの苦労や、そこから学んだことは何ですか?

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北海道の冬といえばなんといっても降雪です。降雪には様々な対策が必要です。電線に多量の雪が付着するとその重みで断線するため、着雪が発達しないように難着雪リングを取り付けたり、電線に付着した雪氷と強風により電線が大きく揺れるギャロッピング現象で電線同士が接近・接触しないよう、電線の距離を保つ相間スペーサを取り付けるなどの対策を行なっています。また、場所によってはヒグマが出没するため危険と隣り合わせです。

活躍する電気技術者達 私が現場代理人を任されるようになってからのことでした。山岳地帯で発生した表層雪崩によって、鉄塔が倒壊する恐れがあり、現場までスノーモービルで駆けつける事がありました。現場では、アクセス道路を確保するための除雪車や鉄骨などの資材を運搬するヘリコプターの手配、作業員の人員確保などに奔走しました。ヘリコプターは一度に最大3トンの資材を運べますが、雪や風など天候に左右され当初の予定通り工程が進みませんでした。2回線の送電線でしたが1回線の仮復旧に75時間、2回線の仮復旧に20日を要しました。普段、現場でよく顔を合わせる協力会社の方や、初めてお会いする方など、当時の現場には100名を超える技術者が集まり、作業の進捗を把握するのに非常に苦労しました。
送電線工事は、最近の技術開発や機械力の導入によって格段に作業効率が良くなっていますが、最後は人の技と知恵が決め手です。人との信頼関係があってこそ成り立つ仕事です。何よりもチームワークが重要で、改めて同僚や協力会社、発注者とのコミュニケーションが大切と痛感しました。

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――若手育成の取り組みを教えてください。

私が若い頃は、仕事は見て覚えろと言われましたが時代は変わりました。我々の仕事はひとつの間違いで重大災害につながる恐れがあります。そのため若手の指導も時間をかけて根気よく、自分でできるようになるまで説明します。例えば施工計画書の作成時、なぜここでワイヤーの太さを変えなければならないのかを現場で確認して、何度もシミュレーションを行います。また、一緒に鉄塔に昇り、ボルトの締め方や胴綱のかける位置などを見せ、最適な方法を自分で考えさせることが重要です。若手技術者の優れている点はパソコン、CADのスキルが高く図面作成などの業務処理が早いことです。一方、伸ばしてほしい点はコミュニケーション能力と感じています。技術的なスキルは後に身につきますが、コミュニケーション能力を高めることが技術者として一人前になる近道かもしれません。

――資格取得を目指す方にアドバイスをお願いします。

私は架空送電線建設工事に携わっていますが、それは電気という枠のほんの一部にすぎません。資格取得を目指す人は、知識を身につけることで仕事の幅が広がります。現在の仕事に直接関係ないと思われても、自分の将来に必ずプラスになります。ぜひ若いうちから、資格取得に取り組んでほしいと思います。